タンゴの街へ


バッテリーの充電を試みていたので昼ごろまでノンストップで走り続け、ガソリンスタンドでパンとコーヒーの遅い朝食をとった。南米には日系人が多いからなのか移民の多い地域だからなのか、他の外国に比べるとあまり外人扱いされることがないし人の事を気にかけない。こちらがスペイン語やポルトガル語がよく分からないと知っても早口で話し続けてきたり、何処から来たのかさえ聞かれないことも普通だ。でも田舎でバイクと一緒の時は興味を持つ人も多少多いようだ。数人で食事をしていた近くのテーブルの一人の女性が意を決したように立ち上がって近づいてきて“英語話せる?”と聞いてくる。ということは少なくともアルゼンチンにいる日系人には見えなかったのだろう。暫く質問攻めにあっていると他の席から、あれを聞いてくれ、これを聞いてくれと目的地や旅の期間など旅に関する質問が女性に寄せられる。最後に女性が“あなた旅のホームページ持ってる?無いなら作るべきよ”と言って出来たら教えてくれとメールアドレースを置いていった。自分の事以外にあまり興味の無い国民性なのかと思っていたけれど、少なくともバイク旅行に興味がある人はいるようだ。
朝食後バッテリーは復活してくれていたので胸をなでおろした。レクチファイヤレギュレータ(バッテリーを充電する機能を持つ部品)は無事だった。

ヴィクトリア(Victoria)からパラナ川を渡りロザリオ(Rosario)に出ると、交通量のとても多い高速道路でブエノスアイレスへ向かう。退屈で仕方なかった。僕のバイクの最高速120km/hでは流れにのるには少し遅いので、ワゴン車やバスの後ろで空気抵抗を抑えスリップストリームで引っぱってもらったりして遊び、何とか眠気をしのいだ。
ブエノスアイレスはヨーロッパ調の綺麗な建物が整然と並びブラジルやパラグアイの街とは明らかに違う。南米のパリと呼ばれるのも嘘ではない。お洒落な雰囲気で騙されているのか、女性たちも心なしか綺麗に見える。観光客の訪れる地区の路上では、タンゴのショーや大道芸などがあちこちで見られ、マテ壷など民芸品の数々を売る店が通りを埋め尽くし1日歩き回っても飽きなかった。
泊ったユースホステルは風格が漂う古い建物が並ぶ街の中にあり便利だったけれど治安はあまり良くない様子だった。でも管理人のおばさんが親切で、金を下ろすまでの間に金を貸してくれたり、バイクを強引に階段を通って地下室に保管するのを許してくれたり、僕がバッテリーを買いに行きたいと言うと、外人が一人で行くとぼられるからと娘のボーイフレンドに頼んで僕を彼のバイクの後ろに載せてバイク用品屋まで連れて行くように計らってくれた。お陰で中国製だったけれどバッテリーを安く購入(プラグとセットで150ペソ≒5000円)できた。そうなるともう街よりも旅を続ける魅力のほうが上回り、3日目の朝クリスマスイブの日に街を後にした。