初めてのパンク


  サンタクルスの中心街を走っている時に、この旅で初めてのパンクをした。
 少しハンドルが重くなりだしたのでタイヤを触って見たら少し空気が抜けていて、翌日ホテルを出るときには完全に抜けていた。チューブに小さな穴が開くスローパンクだった。
 長い距離を走る大旅行で悪路も散々走ることも最初から分かっていたけれど、無謀と言うべきか馬鹿と言うべきか最初から予備のチューブや十分な工具も持たなかった。勿論本当は持ちたかったのだけれど、ブラジルで手に入れようと思っていた僕の小さなバッグに入るくらいのタイヤレバーが手に入らなかったので諦めて方針を変えていた。“パンクしても何が起きても走れるうちは自走でバイク屋がある町まで走る。どうしても走れなくなることがあったら載せてくれるトラックを待つ。”と。だから心の準備だけはしていたけれど、不思議と何が起きても何とかなるだろうという根拠の無い自信もあった。多分今まで幾多のどうにもならないように思えた苦境を乗り越えてきた経験と、どうしようもなければただ死んでこの世から居なくなるだけだ、という“保険”の意識があるからかもしれない。
 せめてもの慰めとして、タイヤの空気圧は乗り心地や路面グリップは完全に無視して通常の倍近くに上げて悪路でのリム打ちパンク対策をしていた。それでも釘やガラスの破片はどうしようもない。
 とっても幸いな事にここは大都会だからバイク用品店も簡単に見付かった。商品はご他聞に漏れず中国製一色。タイヤもリアタイヤが日本円で3000円くらいと余りに安かったので、品質が悪いのは分かりつつも交換することにする。(案の定数日で山が無くなった...。)工賃もあまりに安いので手を汚さなかった。
 しかし僕は本当にラッキーな男だ。結局パンクはこれっきりだったのだから。もしこれから南米バイク旅行に行こうとしている人がいたら、普段使っている携帯工具の類は絶対持っていった方が良い。前にも書いたように、現地で買えるかも知れないと思うものは買えないと思った方が良いだろう。