チェ.ゲバラの道


 スークレからボリビア東部最大の都市サンタクルスへ抜ける国道は信じられないほど凄まじい。恐ろしく酷いダート、川渡りの数々、永遠と続く目を疑うような断崖絶壁の厳しい山道、サボテン林の道、21世紀に居ることを忘れてしまいそうになる女の人達の服装と、この世から隔離されてしまった様な村々、たまに道路にロープを張ってとうせんぼしている料金所があるけれど、バイクは無料だと知ったから同じ間違いは犯さない。近づくとロープを降ろしてくれる原始的なゲートだ。主要国道とはいえ、こんな様子だから稀に車やトラックを見かけるくらいだ。断崖絶壁を大型トラックが進む様は冒険と呼んでも過言ではない。車がすれ違えないほどの幅の道を壁に張り付くようにしてノロノロと走っている。もちろんガードレールなんて無い。でもオフロードバイクにはドキドキわくわくする最高の道だ。
 ここはアルゼンチン人の革命家で英雄チェゲバラもバイクで旅した道で、途中の村のキヨスクの壁には有名な彼の肖像画が描かれていた。57年前にここを通った彼も、今日と何ら変わらない景色を見ていたのだろうと思うと不思議な感じがする。彼と同じ様に強い男になりたいものだ。

 標高も大分下がり長袖では暑いくらいになる。小さな村のホテルの部屋は暑く、久しぶりに蚊も出た。宿の主人は殆ど言葉を発さず、お金を払っても挨拶をしても表情一つ変えないとても無愛想な人だった。日本のサービス業って凄いなと思った。

 翌日少し走ると舗装路にぶつかった。ここからサンタクルスまでは舗装されていて九州のワインディングのような楽しい山道をグングンと標高を下げていく。やがてサボテンも見当たらなくなりサンタクルスの30kmくらい手前からは車も急激に増えてロンバーダ(スピードを殺す道路の突起)が頻繁に現れ、道路の埃も酷くなるし面白くなくなる。そして暑い。ここは標高400m。1週間前に5000mの山で寒さに震えていたのが嘘の様だ。
 サンタクルスの街は大きすぎてさっぱり地理感覚が掴めない。歩いていた若い男に道を聞いたら何と片言の日本語を話す。これだけ日本車が氾濫していたら日本とのビジネスも多いのだろう。車屋や車用品店も多く、日本ぽい名前の店も多い。
 そんな店の一つを面白がって写真に収めようとしたら中から警備員が武器を持って出てきた。“何をしているんだ”と恐ろしい顔で詰め寄ってくるので適当に愛想良く道を聞いてごまかしたが、国が違えば全ての事に相当用心しないといけない。といつも分かっていることながら改めて警戒心を強めた。銃で脅されたのはこれが初めてではない。今回は銃口こそ向けられなかったけれど、アフリカの東に浮かぶ島国マダガスカルでは狙いを定められたことがある。街の中に素晴らしい広大な庭園と宮殿のような建物を見つけて“何だろう”と思って近づこうとしていた時だった。そこは見ての通り宮殿だったのだ。マダガスカルは共産主義の国で、そういう場所には近づいてはいけないのを知らなかった。今回もその時のように突然の出来事だった。
 チェゲバラは自分の銃殺を躊躇する兵士に向かって“落ち着け、よく狙って撃て。お前は今から一人の人間を殺すのだ”と言ったそうだが、彼の様な凄い境地に達していないからそんな言葉は出てこないし、革命を起こしても居ないのに彼と同じくボリビアで処刑されてはたまらない。