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塩を採掘するのは当にこんな場所が適している。シャベルで掬って山を作り、乾いてきたところでトラックに載せる。恐ろしく古いトラック達が何台かとまっていた。こんなに気が遠くなる量の塩を見ると、今後スーパーで買う塩の有難みが薄れてしまうかもしれない。
地面もやや締まってきたあたりに小さな塩のホテルがある。壁、柱、ベッド、テーブル、椅子、全て塩のブロックで出来ている。ここで思いがけず久しぶりに若い日本人旅行者の団体に会った。個人や小さなグループで旅行しているが、ウユニの街のツアーで一緒になってここに泊りに来たらしい。ここは湖の中央にある“島”へ観光に行くツアー客の休憩場所にもなっていて数台のランドクルーザーが停まっている。フランス人グループ、アルゼンチン人グループ、などなど。一人だけ爪先から顔の髭まで塩で真っ白になっている僕は、観光客、ガイドのボリビア人や宿のおばさんにまで大笑いされて一躍ヒーローになった。
そこから先の”島”までは塩は岩盤に変わり、真っ白い世界を時間の感覚が無くなるまでアクセルを開け続けるだけだ。しばらくすると地平線から表れる小さな“魚島”は大きなサボテンが群生する奇怪な光景だ。
あまりに非日常的な景色で楽しかったので戻る途中の塩湖の真ん中でキャンプをすることにした。風も音も何も無い塩原に美しい夕日が沈んで行く。夜、遠くの空が時々明るくなる。雷だろうか。空からは星が降ってきそうだった。泊る予定ではなかったので食料はビスケットとコーラしかなかったけれど、十二分に贅沢なキャンプだった。雪の上に居るように見えるのに日中は気温20度前後で暖かく奇妙な感じがする。しかしさすがにここは標高3660m。夜は冷え込みテントの中でも朝方5度を記録した。
翌日ウユニの街に戻ると一仕事が待っていた。バイクは真っ白になっていて、エキパイにはまるでレンガの様に焼けた塩の塊がこびりついている。多分洗っても錆が出るだろう。既にニュートラルランプが塩水でショートして誤点灯している。次の日には走行中の電気系トラブルによるエンストにも悩まされた。間違いなくこの旅はどんなバイクメーカーのエンジニアも想定していない世界でもっとも過酷な塩害テストだろう。洗車屋さんで洗ってもらい綺麗なホテルに部屋を取った。
ホテルでは日本人の若者達が長々と流しを占拠して洗濯をし、宿のおばさんに再三“水を使いすぎる”と怒られていた。サボテンが生えている土地なのだから水は貴重品だ。僕も昔オーストラリアを旅したとき、宿の人に“この国は水が貴重な国だから食器は流水で洗わないでね”と注意されたことがある。オーストラリア人とカナダ人の見分け方はシャワーの時間、という冗談があるくらいだ。飲み水を買うことなど信じられなかった子供の頃に比べると日本の水道水への信頼は随分と下がったけれども、それでも世界の水に比べればずっと安心で豊かにある水。日本人はその有り難さをもっと知っても良いだろう。