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途中VillaUnionの村で食料を調達しようとしたがシエスタで殆どの店は閉まっていてキオスクでコーラとパンしか買えなかった。涼しくなる夕方の6時からここで自転車のレースがあるらしく、産業も無い様に見える小さな村にカラフルな自転車のジャージを着る人達がたくさんいたり、ロードレーサーを売っている自転車屋があったり、安いグレードながらもそれなりにまともな自転車だったりするのが意外だった。日本では初心者でも超高級パーツで組んだブランド自転車に乗る人が多く、レース会場に並ぶ自転車だけを見るとツールドフランスに来てしまったみたいに錯角する。しかし金をかけていないアルゼンチンの人にとってもレースはレースで価値は変わらないはずだ。レースを始める前にブランドというハードルを越えなければならない日本人はちょっと大変だ。
公園群の最初に現れるTalampajaの公園事務所はちょっと立派でレンジャーの対応も公園入場料も入園のルールも格式ばっていた。レンジャーは初めから英語で説明してくれたし、事務所から先は公園の用意するガイド付きのバスでしか入れず65ペソもするし、閉園時間が近いので翌日まで待たねばならなかった。食料が乏しかったので、レストランがある当初の目的地、月の谷でキャンプすることにした。月の谷の公園事務所はTalampajaよりずっと身近な雰囲気だった。何故ならTalampajaは国立公園なのに対し月の谷は州立公園だから。ガイドは付くけれどもバイクで入れるしレンジャーも気さくな雰囲気。しかも入場料は国立公園の半分の30ペソだ。“どこから来たの”と聞かれたので“メンドーサから”と答える。僕はメンドーサから北上してきたから嘘ではない。“じゃあアルゼンチン人料金で10ペソね。”という具合に更に3分の1になった。これは旅の途中で一緒だったスイス人夫婦から教わったやり方。スイス人は喋らなければアルゼンチン人と言っても通用するけれども僕は言葉からも見た目からも外人だとわかる。でも係官は多分分かっていると思うけれど関心を示さない。アルゼンチンにも日系人がいるからだろうか、はたまた外人料金の理不尽を理解してくれているのかは分からない。夜になると強風が吹き荒れ、テントを激しい雨が叩いた。この地方でこの時期の雨は珍しいらしいが、アルゼンチンのメンドーサ州に戻ってきてからカタマルカ州(Catamarca)まで、夕方になると必ず冷たい雨にやられた。地球の気候変化はこんな砂漠のような大地にも変化をもたらしている。
月の谷はその名の通り生物の気配を感じさせない風化した土と岩の大地だった。2億3000万年前の地層が見られる今も見られる貴重な場所だ。当時ここを闊歩していた恐竜達が消えてここの博物館に復元展示されているように、また数億年後には人間の化石が得体の知れない生物によって発掘されているかもしれないな、と不思議な時空感覚を味わった。