チリの学生ライダー


夕方Uspallataに戻ってガソリンを入れていると若い男が話しかけてきた。写真を撮らせてくれと言う。彼セバスチャン(Sebastian)は珍しく先ず先ずの英語を話すチリの大学生で、オートバイグループでアルゼンチンを旅行してサンチアゴに帰る途中だった。近くに居た彼の仲間は彼を入れて7人。彼以外は彼女を後ろに乗せていたからバイクは4台だ。バイクは中国製や韓国製の125ccや250cc。初めて僕より小さなバイクで旅をする人を見て驚いた。しかし荷物は僕より遥かに多い。数日間の短い旅行だが彼等にとっては大冒険なのだ。
“外国人のライダーと話してみたかったんです。しかも日本から一人で来て僕達と変わらないこんなに小さなバイクでこんなに少ない荷物で旅してる人に会えるなんて驚きです。あなたは僕らの旅のハイライトですよ。”などと嬉しいことを言ってくれる。彼等からサンドイッチや飲み物を御馳走になりながら暫く彼らとお喋りを楽しんだ。彼らの輝いた目がとても懐かしく見える。

 僕も免許取立ての18歳ごろ、父が乗っていたヤマハMARICという50ccのバイクを借りて友達と伊豆の林道にツーリングに行った印象的な記憶がある。もう暗くなっているのにどんどん遠くへ山奥へと進み、山から下りてきた時には真夜中でガス欠になっていた。閉まっているガソリンスタンドに忍び込んで給油ノズルの先端に少しだけ残っているガソリンを入れては次の町のガソリンスタンドへ行って同じ事を繰り返した。あまりに厳しい山を走りすぎてオーバーヒートしたりしたけれども、全てが新鮮で楽しかった。彼らもきっと、今そんな時代を過ごしているのだろう。

 もう暗くなりかけていたのに彼等は先を急いでいるらしくお別れをした。最後にセバスチャンは“僕達の事を忘れないように。”と言って僕にくれた物を見てびっくりした。彼の好きなお酒、日本の酒、ワンカップオオゼキだった。それから彼とは何度かメールのやり取りがあり、チリにまた来たら歓迎会をするから声をかけるように言われている。旅で会う色んな人が僕の記憶に深く残る。同時に僕も誰かの記憶に残っているのだと思うととても嬉しい。
 この日は直ぐ近くのキャンプ場に泊った。この夜は珍しくテントを雨がたたいている。