秘境探検という生き方


旅は人生そのものと思えるときがある。当たり前の話だけれども、右に行く道と左に行く道に出くわした時どちらを選ぶかで全く違う旅が待っている。山道なのか舗装された道なのか、右に進むと左の道で出会うはずだった人や景色や出来事には巡り会えないから後悔の無いように次々と現れる分岐で道を選んでいかなければならない。世界には無数に道があるから旅の順路、すなわち人の生き方も無数にある。全く同じ道をたどる人は居ないけれど、同じような価値観の仲間に出会うことが多いのは同じ様な道を選んで生きているからだろう。僕は幹線道路より田舎道、舗装道路よりも悪路、地図に載っている道よりも道無き道を好む変わり者だ。サラリーマンではない生き方をしようと決めていたのも、サラリーマンの道が地図に載っている舗装された幹線道路だと分かっていたからだ。

 アルゼンチンには驚くほど観光案内所が多い。ChosMalalの様な田舎町にもそれを見つけた。僕はNeuquen州北部国境近くの山岳地帯にある温泉AguasCalientesに行くべきか迷っていた。地図を見ると道は行き止まりになっていたから、同じ道を150kmほど戻ってこなければならないのが決めかねていた理由だ。そこまでする価値があるかどうか案内員に相談すると、戻らないで北へ抜けられる地図に無いルートがあるかも知れないと教えてくれた。
 それは僕の冒険心に火をつけた。山岳方面には小さな部落しかないがガソリンの手に入る所もあるらしいので、取り合えず数日分の食料と満タンのガソリンで山道へと向かった。どの部落も素朴だが、そんな辺鄙な所にも小さな観光案内所があって周辺の情報を教えてくれた。その中の一つで周辺の手作り地図をもらえたのだが、そこには確かに僕の地図には無い険しい山岳地帯の中の未知の道が書かれていた。しかし、それについて人々に聞いてまわったが誰も通ったことが無く、今その道が存在しているかさえも分からなかった。道が風化したり崩れたりしてなくなるのはこの辺りでは珍しい事ではなさそうだった。驚かされるのは、こういった部落に住んでいる人には外界の事を全く知らない人が珍しくないことだ。渡した地図をグルグル回してみたり、隣町の名前さえ怪しい人も居る。世界の中で自分がどこに住んでいるかなど見たことも考えたことも無い人は多いだろう。しかし中には知らないのに何故か自信を持って教えてくれる人も居るから、何度も何度も確信が持てるまで情報収集することが大切だ。あとは自信を持って進むだけで駄目ならその時に考えれば良い。