人生を背負ったライダー達


結局フィルとは会えなかったが国立公園内で二人のバイク旅行者と出会った。一人はシアトルから来たアメリカ人チャックとオランダから来たローレンスだ。ホンダアフリカツインに乗るローレンスはオランダの大学の職員で、何年も前から休暇をとる雰囲気作り、休暇中の仕事をカバーする残業をして、なんとか数ヶ月の休みをもらって南米に来たという。僕がヤマハから2ヶ月の休みをもらってロシアを旅した時もそんな様なものだった。もう一人のカルロスはちょっと変わっている。BMW650GSには考えられない量の荷物がのせてある。後ろに左右振り分けの定番のアルミボックスがあるのは驚かないが前にも上にもとにかく今までで見た中で一番凄い量の荷物だった。そしてドラえもんのポケットの様に何でもそこから出てきた。アメリカのアウトドア用品ショップREIを辞めて家も何もかも売って世界旅行をしていると言うからそれが彼の家であり車であり家財道具なのだ。そして旅そのものが彼の日常でもある。冬で峠を越えられなくなれば麓の町に家を借りて春を待ち再び走り出す。僕よりも遥かにゆっくりとした旅、人生を送っていた。彼は2009年頃にはロシアを横断する為に日本に来るかもしれないと言う。再会するのを楽しみにしている。

 彼等とのキャンプ生活や絵の様な景色の中のトレッキングを楽しみ、3日目にアルゼンチンのペリトモレノ氷河目指して出発した。何故再びアルゼンチンに戻るかと言うと、ここから陸路北へ上がろうとするとチリには道が無いので誰もがアルゼンチンに戻らなければならないのだ。そんな大事な道なのに、ここも両国の幹線道路から国境に延びる道だけ舗装されていない。大自然に満たされた心に人間のつまらないミエがますますちっぽけに見える。

国境の辺りから急にオートバイ旅行者を見かけるようになった。国境を一緒に走った3台のスズキDR800で旅するブラジル人達、ウシュアイア方面から40号を北上してきたブラジルのハーレーのグループ、何も無い原野にポツンと現れた小さなガソリンスタンドで会ったホンダアフリカツインで旅する2組のスウェーデン人カップル、日本では見たことの無い2台のカワサキKLR650に乗るこれまた初めて見るウルグアイ人2人組、日本ではそこそこ高級な車が買えるほど高価なオーストリアのバイクメーカーKTM950アドベンチャーに乗る男は若いアメリカ人で、カリフォルニアで事業が成功してもう働く必要が無いから旅をしていると言う。
他にも色んな国からそれぞれの状況でそれぞれの夢をのせて色んなバイクで旅をしている。彼らの旅のスタイルやバイクを見るのは本の行間から作者の人柄や思いを読むように面白い。
僕の経歴や今回の旅行を知る人は僕の事をうまく言えば凄い人、正直に言えば変人と言うけれども、世界に出てしまえば僕の様な人は極めて普通の人になる。