ヤマハ訪問


 サンパウロに帰ってきた日の夕方、泊めて頂くイナダさんの家に向かいがてら少し寄り道をしてブラジルヤマハを訪ねた。訪ねると言っても誰かに会うわけでもなくただヤマハの会社の前でホンダXR250の写真を撮ってその写真をヤマハの仲間に送る悪ふざけをしたかっただけだ。冗談半分、ヤマハへの思い入れ半分で、旅の最初から僕のバイクのXRという文字はガムテープで加工してヤマハっぽくYRに変えてあった。ホンダのロゴも全てガムテープで隠してある。旅の道中知らない人から“これヤマハのバイクなんだね。”と言われるのを面白がっていた。
 ヤマハを辞めてから初めて会社に来た。ブラジルヤマハには1年振りだ。何か感慨深いものがこみ上げてくるのかと思ったけれど不思議とそうでもない。何か無機質なものを見るような冷めた感覚だった。この5ヶ月弱の旅の間にあまりにも色んな出来事や出会いがありすぎたからだろうか、ヤマハで働いていたことが遠い昔の事の様に感じられる。

しかし友人達が待っていてくれたのは何よりも嬉しかった。イナダさんは家で握手で迎えてくれた。ヤマハで働いている時に知り合った社外の友人タデウ(Tadeu)、僕と前後して会社を離れた仲の良かったダニエル(Daniel)、ネルソン(Nelson)がサンパウロに着いたらビールを一緒に飲もうとそれぞれ誘いをもらっていた。もちろんヤマハの仲間達とも連日あちらこちらで再会した。ヒカルドとデバニールの家には泊めてもらった。みんないつもと変わらない調子で笑顔を見せて普段通りに話してくれる。会社の事や過ぎた時間は全く感じさせない。そう、僕は会社に思い入れがあるのではなくて、そこで出会った人が好きだったのだ。
 全ての人に僕のそれぞれの思い入れがある。会えて嬉しいのと同時にまた暫く会えない、もしかしたらもう会えない人も出てくるかもしれないと思うと寂しくなる。

 旅は人生を早送りして見るのに似ていると思う。たくさんの出会いの嬉しさと、同じ数だけの別れの寂しさが次々と訪れる。旅の中で、短い生涯の中で、66億人の中から遭遇して一瞬でも心を通わすことが出来たことへの驚きと感謝の気持ちがある。その一瞬一瞬を大切に心に刻んで行きたい。