ボリビアの富豪


 この日はホンダのバイクの販売店を訪ねることにしていた。アルゼンチンのサルタのバイク屋で知り合ったアルゼンチン人が、“ボリビアのサンタクルスに親しい友人が経営するホンダの店があるから通るなら寄って見ると良い”と言って連絡先をもらっていたので興味半分で訪ねた。
 それは立派なショールームを持つとても大きなディーラーだった。カワサキの製品も扱うマルチディーラーで昔はヤマハも扱っていたらしい。オーナーはこれから車の販売にも手を出そうとしているらしく、大方のボリビア人とは無縁な、ビジネスの成功を収めている大金持ちだった。会社の要職は一族で固められ、22歳の息子はモトクロスの現役ボリビアチャンピオンでもあり、アメリカのAMAという最高峰のレースにも出ている。写真を見る限り日本の国際A級レベルなのは間違いない。貧国ボリビアに居る事を忘れてしまいそうになる。他にも彼は最新の日本製ラリーカーでラリーに参戦したり南米の急成長を絵に描いたような一家だった。突然の見知らぬ旅人の訪問にも彼等は喜んで歓迎してくれて、昼食に豪邸に招待された。長テーブルを囲む昼食には一族全員が顔を揃え、上品な料理を女中が用意してくれている。日本で騒がれている格差社会とはレベルが違いすぎる。一方で社長の父親は製品の販促活動を兼ねてはいるけれど、キャメルトロフィーのボリビア版とも言える様なATVのアドベンチャーイベントを大々的に主催したりする意欲的で面白い人だった。

店のサービスショップで作業員にオイル交換をお願いしたら、お願いしていないオイルフィルターの交換やエアフィルターの掃除もされてしっかり工賃も請求された。それは良しとしても、1.5リットルしか入らないはずのエンジンオイルが2.5リットル分請求されていたので、さすがにこれには苦笑して訂正させた。古今東西、金持ちになるには訳があるのだろう。

 この夜、バイク用品屋で知り合ったボリビア人バイク乗り二人を誘って夕食を食べに行った。朝バイク用品店で知り合い、昼食を誘われたのだが断っていて、彼らも近くのホテルに泊っているから夜会えたらご飯を食べようと話していた。彼等は日本製の大きなバイクを持っていた。一人は30代の獣医師、もう一人は彼のバイク仲間の20代の男だった。獣医師は田舎の町からトヨタの新車を買いに来たところだった。彼は僕からオートバイの知識を引き出そうと一方的な質問攻めに遭った。金を追う人間独特のギラギラした雰囲気をかもし出していた。こういう街に居ると、金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏になる社会の構図が分かりやすく見える。