リッチな人


そこは先住民の貧しい街だった。街の名前コブレス(銅)の通りかつては銅鉱山で栄えたのだろうが今は何も無いように見える。街の中には案の定独特の背負子に子供を背負った同じ様な物売りのおばさん達が居た。子供を背負っているくらいだから未だ若いのだろうが、毎日強い太陽を浴びた顔は皺だらけで笑顔に覗く前歯はまばらだから年齢が想像できない。外人観光客が入りそうなレストランの前に彼女達がたむろしていたから直ぐにそこがレストランだと分かった。峠で見たフランス人の白いバンも止まっていた。昼時のレストランにバンが1台しかいないのだから、この街に来る観光客の数は高が知れている。僕も昼食を摂ろうとバイクを止めると直ぐに集まってきたが、荷物の隙間が無いことを示すと直ぐに諦めてくれた。というのも丁度その時フランス人達がレストランから出てきたからだ。僕の様なヨレヨレのバイクの格好をした人よりも、金回りが良さそうな清潔な格好をした年寄りのフランス人旅行者の方がチャンスがあるのは誰にでも分かる。フランス人達はたちまち囲まれていた。
 峠で僕の写真を撮ってくれた男の人が気付いて話しかけてきた。“こんなところで外国人旅行者、しかも日本人に会うなんて信じられないよ。”フランス人旅行者は南米に少なくないけれど、こんな所で会うのは僕とて同じ気持ちだが彼はこうとも言った。“日本人はグループ行動が多いのに、バイクで南米を1人旅するなんて特別だよ。”僕が“そうだね、僕は常識外れなちょっとおかしな日本人かも知れないね。”と言うと、彼は真面目な顔をして“いや、僕の言う特別というのは変わっているという意味じゃないさ。君は珍しくリッチな日本人だという意味だ。”と言った。彼がどういう意味で“Rich”という単語を使ったのかは聞かなかった。未だ若いくせにバイクで旅行が出来る金持ちという意味かも知れないし、労働の奴隷にならずに自由な生き方ができる豊かな人という意味かもしれない。ある面を見れば僕はどちらにも当てはまるし、別の角度から見ればまだどちらにも該当しない。しかし明らかに僕は後者を意識しているし目指している。