ブラジルのアミーゴ達


ポルトガル語やスペイン語の“アミーゴ”とは日本語に訳すと友達だが、その使い方は大分違う。親友もアミーゴだし、知らない人に道を尋ねるときも“アミーゴ”と呼びかける。だからブラジルに滞在しているとたちまちアミーゴがたくさんできる。言葉も不自由するし、さぞ浅い友人関係なのだろうと思うかも知れないが、意外とそんな事は無い。もちろん英語や日本語が分かる人と、より深いアミーゴになることが多いけれど、コミュニケーションの天才であるブラジル人にかかれば簡単に心を射抜かれてしまうこともある。

僕が心から信頼している友人の1人にデバニール(Devanir)という面白い男がいる。彼とは僕の2歳児のようなポルトガル語を交えて会話するのだが、彼はいつもまるで大道芸人の様に体全体を使ったジェスチャーやユーモアを交えて場を盛り上げながら会話してくれる。彼がいるだけで皆が笑顔になる、そんな男だ。今回の旅行の準備などでもお世話になった1人だ。彼とは2006年に彼を含め、ブラジル人3人と僕の計4人でカローラを交代で運転しながらブラジル南部を1週間かけて調査旅行した時に知り合った。その時のチームリーダーで彼の親友でもあり、僕の親友でもあるアレックス(Alex)が英語で通訳してくれることも多いが、今は彼とは言葉の壁を越えて心で繋がっている気がしている。彼に限らずブラジル人は明るく自然で気取らない心の壁の低い素敵な人がとても多い。南米には素晴らしい自然がたくさん残っているが1番の魅力は何と言ってもアミーゴだと思う。

今回の旅行で1番お世話になったアミーゴはイナダさんだ。9歳の時日本からブラジルへ来られた方なので日本語で助けて頂き本当にありがたかった。彼が居なかったらこんなに素晴らしい旅にはならなかったに違いない。どこかの安宿に泊って旅の準備をするつもりだったのに、“うちに泊ればいい”との快い言葉、奥さんサナエさんと家族の優しさと快適さにすっかり甘えすぎて、結局5ヶ月の南米滞在中1ヶ月近くお世話になってしまい申し訳ないやら感謝の気持ちでいっぱいだ。
 彼とは仕事上の接点が殆ど無かったにも関わらず度々食事に誘っていただいたり、逆に日本で僕が観光案内役になったりする関係だった。彼はロードレースの元ブラジルチャンピオン、国もレースの種類も違うけれど、同じレースの畑に居た匂いがしたのだろうか、はたまた別の理由だろうか、初めて会って二言三言会話した時からお互いに親近感を抱いていたように思う。
 ある時僕の実家の話題になり、“太平洋を見渡す山の頂上にある森に囲まれた家”と説明すると“あれっ?そこ行った事あるよ。確かスイカをご馳走してもらったよ”とイナダさん。話を聞くと、十数年前に日本に来た時に会社の人に連れられて東京見物に行く途中にそんな所へ寄ったらしい。確かに遠い記憶を思い起こすとスイカの記憶は無かったけれど友人が南米からの客を連れて、実家へ帰省中だった僕を訪ねてくれた事を思い出した。つい数年前に知り合ったと思っていたのだが遥か前に既に出会っていたのだ。二人で目を丸くして顔を見合った。
 出会いとは全く不思議なものだ。そして世の中は狭い。