悪夢その2


プエルトモンに近づくとビーチは賑やかになり、上空では航空ショーをやっていて人や車で溢れていた。アルゼンチンのブエノスアイレス以来に見る人ごみだ。デパートや大きなスーパーやホームセンターもある。良い兆候だ。バイク屋も鍵屋も問題ないだろうと思われた。
 運が良いと言うべきか悪いと言うべきか街の中で突然クラッチレバーが根元から折れた。これが人里離れた田舎だったらもっと気分が凹むだろう。キャンプ場の芝の上に停めている時にサイドスタンドが地面にめり込んで倒れたことがあったから金属疲労が溜まっていたのだろうか。ワイヤーを直接手で引っ張って操作したが、街中の発進停止を繰り返す場面ではとても難しくエンストを繰り返し疲れ果てた。この日は土曜日だからどのみち月曜まで待たなくてはならないので店を探すのを諦めた。
 翌日人に聞いて街を歩いてバイク屋の下見に出かけて愕然とした。まともなバイク屋が無い。どこも中国バイクを何台か並べる程度で店の中はガラガラだった。街で見かけた日本製ビッグバイクに乗る人を捕まえて、どこで買ったのかどこならまともなバイク屋があるのかを聞いた。それは北に20kmも離れたプエルトバラス(PuertoVaras)という町にあるとのことだった。月曜の朝、鍵屋でタンクの鍵と共通のヘルメットホルダーのキーシリンダーを渡して鍵の作成をお願いしてからバイク屋へ出発する。何でも手に入ると聞いていたからさぞ大きなバイク屋だろうと期待していたけれどそれは町外れの分かりにくい場所にある、日本で言えば普通の小さなバイク屋さんだった。しかしホンダ系列でオフロードバイクを得意としている店だったので助かった。タイヤもオイルもクラッチレバーも全て在庫があった。メカニックは来週まで手が開かないと言われたが、自分でやるから工具と場所を貸してくれとお願いしてシエスタ明けの3時まで待ってから大急ぎで整備を始めた。南米では工賃は安いけれどメカニックのレベルの低さは十分知っていたので自分で整備できるのは好都合だった。ブラジルを出てから12000km振りにオイルとタイヤを換えた。
 あとは鍵がうまく行けば問題は全て解決されるところだった