バイク調達


甘かったなと気づき始めたのは1週間も経った頃。バイク入手は心強くもブラジルヤマハの仲間が販売店に問い合わせてくれたり、一緒にバイクを見て回ってくれたりしたのだが、その値段の高いこと高いこと。4ヶ月実際にブラジルのオートバイ業界を見てきたからバイクに限らず工業製品がとても高いことは知っていたけれど、日本では二束三文にしかならない10年以上前のバイクでさえも恐ろしく高いことに驚いた。日本の新車以上の値段がついていることも珍しくない。ブラジルでは今、需要が供給を大きく上回っていて工業製品が耐久財としてではなく資産として捉えられているという話も聞いた。

 特に予算を決めていたわけではないけれど、サンパウロ中心街の交差点で信号で止まると、銃を持った強盗が現れて盗られるとか、鎖をかけて駐車したバイクが消えていると言った話は頻繁に聞く話なので、あまり高価なバイクは買いたくなかった。長い期間悪路の多い道を旅をすることになるから、オンロードタイプ、あまり古いバイク、排気量の小さすぎるバイクも候補から除外した。もちろんヤマハのバイクには慣れているし、ヤマハのエンジニアだった事への誇りもあったからヤマハから選ぼうとするとXT225(日本名セロー225)というバイク以外に選択の余地がなかった。友人の紹介もあって、以前仕事で訪ねた事のある有力なヤマハ販売店に行き探してもらうことになった。“直ぐに俺が責任持って適当なのを探すから任せてくれ”友人の知人である社長にそう言われて待つこと更に1週間。連絡が無いのでこちらから連絡して訪ねると、謝るでも言い訳を言うでもなくボロボロでまともに前にも進まない様なバイクをその場で探してきて紹介された。
 まったく自分は迂闊だった。日系の友人宅にお世話になっていたためなのか、まだ日本に居る様な感覚だったのだ。ブラジルでは、或いは日本の外では、自分と自分の親しい人以外当てに出来ないのは当たり前のことだというのをすっかり忘れていた。それからは自分の足で探し始めたのだが更なる問題が明らかになる。外人は購入できないのだ。具体的にはブラジルで生活する人なら誰でも持っているCPFという身分証の番号がないと登録できないのだ。調べると外人でも母国の戸籍謄本、正確には覚えていないけれど十万円単位のお金、それに発行までの長い待ち時間(確か1ヶ月くらいだっただろうか)さえあればCPFは取得できることが分かったが、条件が悪いのでその線は諦めた。最終的に、駐在している日本の友人の名義で購入し、その友人が僕に貸しているという公的書類をつくる方法がベストという結論になった。その書類とは、貸借関係と僕がブラジル国境を越える旨を書いた紙をポルトガル語で用意し、カルトーリョと呼ばれる登記所に友人がサインを登記すると同時にその紙にサインをし、そこに登記所の承認印をもらう仕組みだ。何だかとても面倒でややこしい。

もうこれ以上旅を遅らせたくなかったのでバイクは週末にサンパウロで開かれる車とバイクのフリーマーケットで買うことに決めた。だから当日適当なヤマハがそこに無かったのはとても残念だったし、ブラジルヤマハの仲間が応援してくれる中でホンダに乗るのは抵抗があったけれども、残念ながら16000km走った2004年式のホンダXR250を7300レアル(50万円弱)で買うこと以外に選択肢が無かった。そこから友人に貸借書類を準備してもらったり、デスパチアンテという代書屋へ行って名義変更の手続きをしたり、友人の友人のサンパウロのバイク屋さん(RJR MOTOS)で整備や修理のお世話になったりとバタバタ走り回って、結局旅への出発は入国から3週間もたった12月13日になった。10年ぶりの口約束にぎりぎり間に合った。