石油と風の町ラスヘラス


コモドロを離れ直ぐに右折し内陸に行く道、国道25号を進む。暫くして未舗装の荒野へと続く16号に左折し内陸の石油の町ラスヘラス(LasHeras)を目指す。このルートを選んだのは3号線を走るのに飽きたので、そろそろ長いダートを走って見たかったからだ。この辺りは石油が取れるので荒野のあちらこちらにシーソーの様にアームを上下させる採掘機が見える。巨大なものもあればアームの長さ数メートルくらいの小さなものもある。と言うことは比較的浅い地層でも石油がとれるのだろう。お陰でこの辺りはアルゼンチンの中でも一番ガソリンの値段が安くレギュラーがリッター50円くらいだ。産油地から遠くなるにつれ輸送コストがかかるのでアルゼンチンでは北部が一番高い。国の政策としてはどうかと思うけれど合理的ではある。

ダート道に入りラスヘラスまで見渡す限り荒涼とした緑の平原と山の見える素晴らしい景色が続く。誰もいない、車もいない。地球を独占している気分だ。感動で胸が一杯になる。結局140km走り4台の車にしか出会わなかった。

ラスヘラスに入る手前に町のごみ捨て場があった。焼却炉があるわけでも何でもない。ただ何でもかんでもその場所に捨てるだけなのだ。この土地は風が強いのでビニールごみなど軽いごみは風で飛ばされ広範囲に広がり草木にへばりついていてとても見苦しい。人間のエゴ、現代の消費文化の見苦しさがここに象徴されているかのようだ。

 街は石油が発見されてこの数十年で随分人も増えたと聞いたが、オイルマネーを求めて働きに来た労働者が多く、街には色が少なく無機質で寂しい印象がある。僕がこの街で出会った若い医師はここでの仕事やお金の魅力と故郷の風が無く暖かくのんびりした住環境を天秤にかけて悩んでいた。石油会社でトラックの運転手をしているというDavidは、話をしてみるととても頭が良いのが分かる。高校を出たとき、大学で工学を勉強する選択肢を捨てて今の職業を選んだのだそうだ。大学を出てエンジニアになるよりも石油会社でトラックを運転する方が給料が高いらしい。彼の給料は月2000ドルくらい(21万円)。アルゼンチンの一般的な収入や物価水準をみるとかなり高額だ。若者の生活を左右し教育の機会さえ奪う石油そしてお金。しかしそれらが無ければ現代社会は成り立たないのも事実だ。生きるための石油とお金なのか、石油とお金のために生きるのか。人は難しい選択を迫られている。