南緯40度のパタゴニアへ


ト−ンキスト国立公園(Tornquist)の山々は久々に見る陰影のある景色で魅力的だったけれども先を急ぐことにして33号そして再び3号に戻りひたすら単調な南下を続け美しい川岸の町カルメンデパタゴネス(Carmen de Patagones)のキャンプ場まで20時の日没近くまで10時間走り1日で700km進んだ。町の名前の通り、ここは南緯40度を越えたパタゴニアの入り口の町。クリスマス休暇もあって町は多くの観光客で賑わっていた。この夜は美味くて安い店として紹介してもらった町の中心にある華僑の経営する中華料理屋で食べ放題のバイキングを食べた。肉料理とピザに飽きていたのでとても美味しくてついつい食べすぎてしまい次の日激しい下痢をした。

パタゴニアには小さな町や村にも観光案内所があることが多く頼もしい。余程大きな観光地や都市に行かない限り英語に出会えることは滅多に無いけれど、それでも案内役の人はとても親切熱心に相談にのってくれるし、それが笑顔の綺麗な女性だったりするとそれだけで1日が楽しくなるから男は単純だ。カルメンデパタゴネスの観光案内所の女性がそんな人だった。彼女のアドバイスもありネグロ川の河口へ下り大西洋を見に行った。見渡す限り平らな陸と砂浜と海の広がる人気の無い海岸に地球の大きさを感じる。パタゴニアと言っても東海岸はどこまでも平野が続いていて、西側の地形が入り組み氷河やアンデスを望むような派手さは無い。だからどうしても刺激が欲しくなる。地図を見ると海岸沿いに未舗装路が200kmほど国道3号と平行して続き合流している。この日は予備タンクにもガソリンを入れていたので安心して行ってみることにした。左手に海を見ながら車の全然通らない砂利道をぶっ飛ばしながらヘルメットの中で喜びの雄たけびをあげていた。時々フカフカの砂浜そのものが道だったりしてバランスを取るのが難しくてヒヤッとする事もあったけれど、趣味がオフロードの僕にはそれも最高の楽しみ。疲れたら道の真ん中にバイクを停めたまま波打ち際で裸になってのんびりと日光浴を楽しんだ。

僕の持っていたFirestoneの地図はとても良く出来ていた。舗装路は赤で、未舗装路はレベルに応じて3種類の色の計4種類に色分けされている。赤の舗装路と緑の未舗装路は大体管理されているけれども残りの2種類はとても荒れているか、その存在自体がもはや怪しいこともある。今日僕が通った海岸の道ですら緑色だから、4WD以外の普通の乗用車やオフロードバイク以外のオートバイで舗装道路を外れるのは余程の情報収集と覚悟が必要だろう。

 この夜はバルデス半島の付け根の鯨も良く現れるという海岸でテントを張った。朝、尋常では無い光景にギョッとした。テントの内側も外側もバイクも無数のハエで覆い尽くされていたのだ。シベリアを旅した時に同じ光景を目にしたことがあったが、その時はハエではなく蚊だったから尚悪かった。ヘルメットも被って完全武装でテントを出て用を足そうとズボンを下ろした瞬間にケツが蚊で真っ黒になった。ハエなら刺される心配は無いけれど、あまりの数の恐ろしさにトイレも我慢して急いで出発した。